<1>町が縮んでいった
周囲の工場が一つまた一つと閉鎖されていきました。
A社も縮小を余儀なくされました。
聞き慣れた機械織りの音が途絶えがちになり、見知った顔が街から次々と消えていくと、A社長は寂しさよりもはるかに大きな危機感に襲われたといいます。
A社長は以前にも増して営業に飛び回るようになりました。
弁舌を尽くし自社の技術の高さを売り込んだのです。
しかしながら、「労多くして功少なし」という言葉だけで、当時のA社の状況は言い表すことができます。
新規の顧客を獲得することはとても叶わず、既存のお客さんもじわじわと離れていくばかりだったのです。
<2>三世代でお出かけ
A社の転機は思わぬ機会にやってきました。
その日はビジネスの修羅場から離れたのんびりとした一日となるはずでした。
A社長夫妻にその子供、そして先代社長の夫婦が加わってのお出かけです。
たまには孫の顔を親に見せてやろうとのA社長の心遣いだったようです。
おいしいと評判の近所の焼肉店での食事です。
タン塩、カルビにロースと一通り注文を終えました。
肉を待つ間に、A社長はテーブルにあったパンフレットを何気なく手に取ったそうです。
その1ページ目には焼肉店の来歴がありました。
<3>焼肉屋さんの歴史
パンフレットによると、その焼肉店はもともと牛の肥育農家を営んでいたそうです。
それがやがて自分のところで繁殖までするようになり、品種改良を施し、牛肉の加工・販売、そして焼肉屋をオープンするようになったと綴られてありました。
それは年代ごとに箇条書きされた素っ気ない記述ではありましたが、行間にお店のピンチとそれを乗り越える決断が詰まっているようにA社長には感じられたのです。
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